「私さ、トレジャーハンターになるんだ」
その言葉を初めて聞いた時には、ふーん、と思っただけだった。
トレジャーハンターになる、と言ったのはロキの家の近所に住む3歳年上の女の子で、名前はアルマ、と言った。
アルマは活発な女の子で、いわゆる姐御肌、というやつだ。ロキはアルマの事を「姉ちゃん」と呼んでいた。
アルマとロキの間には親分と子分、良く言えば姉と弟のような関係が出来上がっていた。小さい頃はもちろん3歳年上のアルマの方が身体も大きくて力も強かったので、この関係は自然と言える。
ロキは同い年の男子の中ではそれなりに恵まれている体格だったし体力がある方だったので、成長期にさしかかる頃には純粋に力比べをすればアルマよりは強かった。立場を逆転しようと思えばできたかもしれない。だが、ロキは気が強くて面倒見の良いアルマが好きだったし、アルマに連れられて近所を探検するのが好きだった。
子供にとってはちょっとした冒険を重ねるうち、ロキ自身もトレジャーハンターになれたら面白そうだな、と思うようになった。いつも、トレジャーハンターについて熱く語るアルマの影響だろう、と自分でも思った。

「・・・姉ちゃんはさ、何でトレジャーハンターになりたいんだ?」
ふと、そう聞いた事があった。アルマが14歳になり、母親を残して1人で村を出ようとしていた時だった。本格的なトレジャーハンターを目指すべく、アカデミーで勉強をするためだった。見送りに村はずれまでついて行ったロキは、背中を向けて行こうとするアルマに何故かそう聞いてみたくなったのだ。
アルマはちょっとびっくりした顔をしたが、少しはにかんだような表情になって話し始めた。
「私の父親ってね、トレジャーハンターらしいの。私が物心つく頃には、旅に出たまま行方不明。うちが母子家庭なの、だからなんだけどね」
「・・・・・・」
「だからかな、小さい頃からトレジャーハンターの事書いてある本、色々読んだの。お父さんってどんな人かな、って。・・・そういう事してたらさ、いつの間にか自分でトレジャーハントやりたくなったんだ」
「・・・ふぅん」
「このペンダントね、お父さんがくれたペンダントなの。私が生まれる時に、生まれてくる子に、って・・・」
そう言って、アルマは自分の首に下がっている古びたペンダントをロキに見せた。いつもアルマの首に下がっているペンダントは、ロキにもよく見覚えがある。
「・・・お父さんと同じトレジャーハンターになれば、いつかお父さんの消息もわかるかもしれないしね」
そう言ったアルマの目が、どこか遠くを見ているような感じだったのが印象的だった。

ロキには、兄が1人と、妹が2人いる。5歳上の兄はキング、3歳下と6歳下の妹はアデリーとケープという。
兄のキングは小さい頃から病弱で、よく熱を出しては寝込んだ。体格もどちらかと言うとひょろっとしていて頼りない感じで、外で遊ぶよりも本を読む事が多く、頭も良かった。
キングが肉体労働向きでなかったので、ロキはよく兄に代わって家の手伝いをしていた。ロキの家は農家で、裕福とは言えないが一家がなんとか食べて行ける程度の収入はあった。

「・・・でも、あの子を学者にするわけにもいかないしね・・・うちにそんなお金なんてないし。調子の良い時には手伝ってくれるけど、ロキの方がずっと働きが良いよ。キングは寺院に入れて、ロキに家を継がせましょうよ。寺院なら、キングも好きなだけ勉強ができるし。大人になったら丈夫になるかと思ったけど、どうも無理みたいだもの・・・それなら、今のうちに寺院に入れた方が良いでしょう」
夜中にトイレに起きたら、両親の部屋からそんな話が聞こえてきた事がある。ロキが13歳の時だった。
(・・・兄貴が寺院に入れられる?)
そんな馬鹿な、とロキは思った。
優しくて、頭の良い兄。
たしかにキングはロキより体力も腕力もないが、作物の育ち具合を見たり、どう世話をすれば良いか考えたりするのが得意で、作業の分担も的確だった。小作人よりも経営者の方が向いている・・・それだけだ。それほど裕福ではないとは言え、キングを寺院に厄介払いするなんて。
第一・・・兄貴が寺院に入りたがるはずがない、とロキは思う。寺院に入ったら僧侶になるしかないし、僧侶になったら結婚が出来ない。
今、兄貴は恋をしている・・・そして、その恋の相手も、兄貴の事が好きなのだ。2人は、結婚の約束をしている。
皮肉な事に、兄・キングの恋人は、最近アカデミーを卒業して帰ってきたアルマその人だった。そのテの機微に関してはとても鈍いロキは気がつかなかったのだが、2人はアルマがアカデミーに行く前からお互いに惹かれあっていたらしい。その事実をロキが本人達から聞いたのは、2人がひそかに婚約をした後だった。
「しばらくは、トレジャーハントを続けたいんだ。あと何年か続けて、引退したら・・・あとはキングのそばにいるつもり。二十歳くらいまで、かな・・・」
頬を桜色に染めて嬉しそうにそう言うアルマは、本当に幸せそうだった。

キングが農作業中に倒れたのは、ロキが両親の内緒話を聞いてしまった夜から1年ほど後の事だった。結局、キングの寺院入りは様子見の先送りになっていたらしいのだが、倒れたキングが数日間意識を失っている間に、両親はその話題を思い出したらしい。ロキは妹達とキングの看病をしているところを両親に呼び出された。
「ロキ・・・キングの意識が戻って落ちついたら、あの子は寺院に入れようと思う。あそこなら病院施設もしっかりしているし、あの子の大好きな勉強もできる。この家は、お前が継ぐんだ・・・そのつもりでいてくれ」
「俺は・・・トレジャーハンターになるから、家を出る。継げと言われても、継がねぇよ。この家を継ぐのは兄貴だ」
自分でもびっくりするくらい自然に言葉が出てきた。
驚き怒って反対の言葉を投げかける両親を置いて、ロキは家を飛び出た。外はすっかり暗くなっていて、三日月だけが冷たく光っていた。
友達の家にでも行って一晩泊めてもらうか・・・と歩き出そうとしたら、近くの木陰に人が立っているのが見えた。
アルマだった。
「・・・姉ちゃん?何してるんだ、そんなところで?兄貴の見舞いなら、入れよ。俺はちょっと、出かけてくるけど」
アルマは、返事をしない。
「・・・泣いてるのか?」
近寄ると、暗闇の中にいるアルマは泣いているようだった。
「キングのそばに、いたい・・・でも、まだ諦めたくないんだ。まだ、行ってみたいところがあるし、トレジャーハントをさ、続けてれば・・・いつかお父さんの事、何かわかるかもしれないって思うと・・・なんかもう、どうして良いのかわからない・・・」
溜まっていたものを吐き出すようにアルマはまくしたてた。
「姉ちゃん・・・父親に貰ったってペンダント、してたよな?」
「え?」
「今もしてるか?」
「あ、うん・・・これだけど」
「それ、俺に預けてくれねぇかな」
「・・・何で?」
「俺、トレジャーハンターになるよ」
「・・・は?」
「トレジャーハンターになったらさ、代わりに姉ちゃんの行ってみたいところに行って様子教えてやるよ。ついでに父親の事も探してやる」
「ロキ、何言ってるの・・・?頭どうかした?」
「手がかりが何もないと困るから、ペンダント貸してくれ」
「あのさ・・・」
話がよくわからない、という顔で言葉を返そうとしたアルマを、ロキは抱き締めた。
「ロキっ・・・!?」
驚いてもがくアルマをそのまま押さえ込むように抱き締め続ける。アルマの身体は華奢で、小さかった。
「頼む・・・姉ちゃんは、兄貴のそばにいてやってくれ。たぶん、それが一番良いから、さ」
「・・・ロキ・・・」
「頼むよ、姉ちゃん・・・俺の、一生のお願いだ」
アルマはしばらく黙っていたが、落ち着きを取り戻した声でロキに言った。
「一生のお願いじゃぁ・・・仕方ないね。高くつくよ?ロキ」
「あぁ」
「さっき言った事、本当だろうね?嘘言ったら承知しないよ?」
「あぁ・・・」
「・・・・・・わかった」
ぽんぽん、とロキの背中を優しく叩いてからロキの腕を離れると、アルマは自分のペンダントを外した。
「ほら、これ。・・・あげるんじゃなくて、預けるんだからね。失くしたら酷いよ?」
「さんきゅ、姉ちゃん」
「ううん、こっちこそありがと。・・・ごめんね」

ごめんね、の意味はロキにはいまだにわからない。わかるような気もするが、なんとなく、わからない事にしておきたい。

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